Imager of MPPC-based Optical photoN counter from Yamagata
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半導体光センサMPPCをセルごとに読み出すことでガイガーモードAPDアレイとして動作させる、光子計数型のイメージングセンサを開発しています。当研究室で独自に開発しているもので、山形大学生まれの観測装置です。せっかくなので山形にちなんだ名前をつけたいと考え、ソウルフードの芋煮になぞらえてIMONYと名付けました。
Crabパルサーの観測によって天体可視光の高速測光・動画取得が可能であることを示し、電波望遠鏡と連携した科学観測を始めています。回路系の小型化によって可搬性が得られ、アマチュア望遠鏡での掩蔽観測に利用可能になりました。まだ十分に開拓されていない可視光の高速時間領域で、新たな発見に出会えることを期待しています。
高速カメラが欲しい
「普通」の星はいつも同じ光度で輝いていますが、中には光度が変化する天体も多数存在します。
光度変化の速さや振れ幅、繰り返しの有無、変動予測の可否も様々で、いずれも光度変化を起こす原因となる天体現象を反映しているはずです。
光度の時間変化を精密に測定することは、このような現象の謎を解く重要な手かがりとなります。
Crabパルサーは強い磁場を持った中性子星で、約34 msの周期で繰り返すパルス状の光度変化が観測されます。
この周期はパルサー本体の自転周期に対応しており,光度変化のパルス波形は放射領域の3次元的構造を反映していると考えられます。
そのため,自転周期よりも十分に短い時間分解能で光度変化を測定することが,パルサーの放射機構への手がかりに繋がります。

Credit: Joeri van Leeuwen/ESO/AURA
Crabパルサーでは通常のパルスに比べて100倍から1万倍にもなるような強度で、突発的な放射が起こる巨大電波パルス(Giant Radip Pulse/GRP)が頻発しています。
長年その存在は知られていましたが,生成メカニズムや放射起源は未解決問題です。
GRPの放射機構の手がかりを得るためには、
GRPが発生しているその瞬間に限った測光データが必要で、ミリ秒未満の時間分解能が求められます。
試作センサ
当研究室でも馴染みの深い、放射線検出器としてシンチレータの光読み出しに使ってたきたMPPCという半導体光センサがあります。光子を検出するとガイガー放電を起こし、一定量の電荷をナノ秒スケールで出力します。多数並んだ有感部セルから出る信号を合算して出力し、その総受光量がわかるセンサです。このままでは天体観測には不向きなので、メーカに依頼してセルごとに信号を読み出すよう改造してもらいました。写真中央にある小さな領域にセンサが封入されています。1つのセルの大きさは100ミクロン角で、4×4に配置されています。
試作品ということもあり、わずか16画素しかなく画素も粗いですが、立派な超超超小型カメラになれるはずです。

セルが光子を検出したときの電気信号波形を示します。鋭く細いパルスによって、誤認識することなく非常に精度よく光子の到来時刻を測定します。それぞれのセルから出てくる信号に時刻をつけていけば、既存のカメラを圧倒的に凌駕する秒間フレーム数のモノクロ動画に焼き直す事ができます。
超高速可視光天文学IMONY
実証実験
理学部の屋上にあるやまがた天文台の望遠鏡で実証実験を行いました。
口径35 cmの望遠鏡に取り付け、必要な電子回路群やPCも持ち込んで設置した様子の写真です。

冬の山形での屋外実験は(本当に)寒くてたいへんでしたが、約1ヶ月かけて挑戦し(悪天候含む)Crabパルサーを約7分間観測することに成功しました。
よく知られたCrabパルサーの周期的な光度変動波形を高い時間分解能で捉えるができました。
さすがにアマチュア用望遠鏡では集光力に限界があるものの、
光子を1つ1つ検出するこのセンサで高速撮像測光を実証したことになります。
かなた望遠鏡へ
口径1.5 mの広島大学東広島天文台「かなた」望遠鏡に搭載した実験を進めています。
またGRPの発生した瞬間の光度を観測したいので、電波望遠鏡との同時観測が必要不可欠です。
関係者のご協力を頂いて電波・光のCrabパルサー同時観測をすでに何度か実施し、
現在も継続的にデータを蓄積中です。
機材一式を持ち込んで、ナスミス焦点に自分たちで設置します。
別室の観測部屋ですべて操作するため、リモートコントロールの仕組みを構築しています。

せいめい望遠鏡へ
東アジア最大級の口径を誇る、京都大学岡山天文台「せいめい」望遠鏡に搭載した実験も進めています。
口径3.8 mの望遠鏡のナスミス焦点にある、小型装置フランジと呼ばれる壁に装置を取り付けます。私達は観測に行くたびに取り付け・取り外しを行うため、部品点数の多いIMONYはわりと大変な作業になります。そこで信号処理回路系を新たに開発し、小型集約化に成功しました。素粒子実験用に開発された集積回路を採用することで実現しました。

大口径の集光力を活かし、かにパルサーの自転周期ごとの可視光パルスの検出に成功し、装置の性能を実証することができました。

せいめい望遠鏡とIMONYで捉えたかにパルサーの光度曲線。34ミリ秒の自転周期で繰り返している
中性子星や高速電波バーストといった高エネルギー・高速天体現象の観測研究をこれから本格的に進めながら、多色カメラ化への開発も行っています。
可搬化と掩蔽観測への応用
装置が小型化したことにより、可搬性を獲得しました。そうすると、観測地点へ持ち運んで使うアマチュア望遠鏡とIMONYの併用が可能になります。その活用方法として期待しているが掩蔽観測です。
掩蔽は、遠くにある恒星の光を太陽系内の小惑星などが遮ることによって、地上では恒星が一時的に暗くなるように見える現象です。小惑星が地上に作る影を観測するとも言え、多地点で同時観測することで小惑星の形状を調べることが可能です。影に出入りする前後の光度変動の様子から小惑星の大気の様子が分かったりもします。IMONYの高速測光によって、CMOSカメラでは捉えられないような光度変動を観測できるはずです。
モバイルバッテリでシステムのすべてを駆動し、アマチュア望遠鏡に搭載して動作を実証することができています。実際に掩蔽の観測を成功させたいところです。

学生さんの活躍 開発は続く
首尾よく動作したとはいえセンサがいくらなんでも小さすぎるので、大型化を進めています。
回路系のさらなる小型集積化を進め、信頼性の高い科学データが得られるよう取り扱いやすく安定動作するパッケージを目指します。
回路基板の設計、製作。治具の設計、製作発注。
FPGA回路のコーディングとデバッグ。
観測に必要なオペレーションソフトウェアの開発、整備。
そして観測データの解析とソフトウェアの整備。
研究のあらゆるフェーズで大学院生・卒研生の活躍なくしてはこの研究は実現しませんでしたし、
これからきっともそうなるでしょう。