宇宙線をもっと身近に
昨今では特に、学校教育での探求活動として、様々な分野の科学研究が中高生によって行われています。しかし、学校や教諭の巡り合わせによって、生徒を取り巻く環境やテーマ選択の自由度が変わります。
宇宙・放射線・素粒子は、なんとなく興味を持つ生徒が多いにもかかわらず、深く関わろうとするとなかなか難しい現状があります。物理学が難解である以前に、触れる機会がそもそも少ない・機会を作ることが難しいからです。大きな実験施設が必要であったり、計測技術が高度であったりすることも一因です。
宇宙線は地上のどこでも降り注ぐ高エネルギーの放射線・粒子線であり、「誰でも利用」できる対象として適しています。あとは扱いが平易な装置があればよいということになります。
また、一般にはあまり知られていませんが宇宙線は宇宙の重要な構成要素の1つです。そして生徒が興味を持つことが多い、いわゆる高エネルギー天体が宇宙線を生み出していると考えられいます。これらの関連性が伝われば宇宙線に興味を持ってもらえる可能性があり、よい題材となります。

Image credit: A. Chantelauze / S. Staffi / L. Bret / Pierre Auger Observatory
OSECHIと探Q
Outreach and Science Education for Cosmic-ray Hunting Instrument (OSECHI)検出器は上記のような背景から生まれた宇宙線ミューオンの検出器で、素粒子物理学の研究者・技術者を中心としたグループが開発しました。そして「探Q」というグループを立ち上げて、中高生を主な対象としてOSECHIを使った宇宙線計測ワークショップを開催しています。また、特定の高校と連携して、装置の貸出だけでなく、高校教諭からの要請に応じて研究者が探究活動を直接的にサポートもしています。
当研究室も誘いを受けて探Qグループに加入し、様々な活動をともにしています。現在では、大阪大学・KEK・九州大学・名古屋大学・総合研究大学院大学・宮崎大学のスタッフ・学生と協力体制になっています。
下の写真は、早稲田大学本庄高等学院の教諭・生徒さんたちとともに、秋山庚申塚古墳の中にOSECHIを設置している様子です。古墳にまつわる学際探究の一貫として、ミューオグラフィに挑戦する課題をサポートしています。

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OSECHI検出器
名前の通り、検出器一式は重箱に収められています。下段にはミューオンを検出するプラスチックシンチレータとMPPCが3組入っており、上段にはマイコンで制御する信号処理回路が収められています。MPPCの出力信号はコンパレータで弁別されてヒット信号としてマイコンが検知し、タイムスタンプをつけたデータを生成します。またヒット成立時には対応するLEDがフラッシュするため、目視でも検出の様子を知ることができます。
そして2025年3月に新バージョンの回路基板が試作されました。これから評価試験を行います。

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学生の活動
卒業研究でOSECHIの開発や試験をテーマにすることができます。
(活動を継続することは可能ですが、基本的に大学院進学時には研究テーマを変えてもらっています。)
ワークショップに出かけてスタッフとして、運営や実習補助を通して生徒やお客さんと直接関わることができます。
シチズンサイエンスへ
OSECHIのような誰でも扱える宇宙線検出器が、日本中に(あるいは世界中に)設置されていたら何ができるでしょうか。趣味や興味でOSECHIで宇宙線観測する市民が日本中にいたら何ができるでしょうか。探Qでは(中高生を含む)広く一般市民に普及することを目指しています。
多数の検出器が同時に検出するような超高エネルギー宇宙線の空気シャワーが捉えられるかもしれません。長期的にモニタリングしていると、地球規模で大気や地磁気の変化によって宇宙線の到来頻度が変わるのが見えるかもしれません。ミューオグラフィの敷居が下がってお手軽に透視ができるかもしれません。
市民が科学データの創出などに大きな貢献をすることで進む研究ををCitizen science(シチズンサイエンス)と呼びます。シチズンサイエンスは世界的にその重要性が認知されており、様々なプロジェクトや実績がすでに存在します。もちろん実現にはいろいろな障壁がありますが、多くの人を巻き込んでOSECHIを軸にしたシチズンサイエンスを目指しています。
加速キッチンへの協力
宇宙・素粒子研究を中高生に提供する団体・[加速キッチン]に何度か協力しました。
米沢興譲館、山形東、東桜学館、アルゼンチンの科学クラブなどに所属する高校生の研究を主にZoomによるリモート会議でサポートしました。中高生の活躍を宇宙線国際会議で報告しています。
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