科学コミュニケーション

駄文

山形大学理学部の理学共通科目「サイエンスコミュニケーターB」を2022年度から担当しています。専門的な教育も受けたことがないので正直無茶振りだと思いましたが、自分なりに考えは持っていたので、学生さんと一緒に自分も学ぶ機会にしてしまおうという算段で受け持つことにしました。

 

某所で実施したセミナーのスライドから。

サイエンスコミュニケーションは広範な概念を包括する言葉です。研究者が市民に知識や成果を伝達するのもその典型ですし、楽しいイベントを開催して子どもたちに科学の楽しさを知ってもらうというのも一例です。しかしそれだけではありません。科学的な情報を踏まえた上で社会的に合意を形成するプロセスもサイエンスコミュニケーションですし、科学研究の主体が市民にあるシチズン・サイエンスの成果などを発信したり研究者を巻き込んでいく活動にもサイエンスコミュニケーションがあります。

授業では、こういった広汎なサイエンスコミュニケーションを俯瞰できる視点を養成することを目標としました。サイエンスコミュニケーションは楽しくキラキラしたイメージが持たれがちで、それは一面としては正しく大事な側面でもありますが、もっともっと広い視野で考えて将来の活動の土台になってほしいと思っています。

そのために、授業は以下の3つのパートで構成しています

1. 知識を深めて議論する「ゼミパート」

サイエンスコミュニケーションの歴史や取り巻く様々な概念や理念を学習し、班ごとの調べ学習を行います。そしてプレゼンテーションとディスカッションを行っています。特に重視しているのは質疑応答のディスカッションで、必要に応じてコメントや解説を加えます。研究室配属後の研究発表などにもつながると思います。

 

2. リアルを知る「ゲストパート」

実際に何らかのサイエンスコミュニケーション活動をされているゲストをお呼びして、その活動内容や理念等のお話を交えながら実習を展開してもらっています。私も受講生と同じ立場で参加して学んでいます。またサイエンスライター小谷太郎さんによる集中講義も別途開催しています。

 

3. 自分で考えて手を動かす「実践パート」

半期の仕上げとして、企画・行動する活動です。実際に何かをやろうとしてみると、入念な企画や設計、調査と準備が必要であることが分かります。そのような経験を積むことを目的として、年度によって異なる活動を行っています。

ゲスト講師の記録

所属や役職は実施当時のものです。

2025年度
内定済み
近日公開
2024年度
中島裕司
大阪芸術大学非常勤講師(洋画)
ミューオグラフィアート
ウチダヒロコ
イラストレーター
生物・生命科学をイラストで伝える
内山秀樹
静岡大学教育学部准教授
理学と教育をつなぐ教育研究
北川桐香
宮城県蔵王町ジオパーク専門員
地域におけるコミュニケーター:ジオパーク専門員
2023年度
大西浩次
長野高専リベラルアーツ教育院教授、「長野県は宇宙県」連絡協議会会長
シチズンサイエンス=市民科学の歴史とその未来
大野ゆかり
東北大学生命科学研究科博士研究員/サステナビリティーセンター・サイエンスコミュニケーター
「生態学における市民科学(シチズンサイエンス・市民参加型調査)とサイエンスコミュニケーション」
「あなたの写真がマルハナバチを救う!写真を用いた市民参加型調査『花まるマルハナバチ国勢調査』」
高橋知也
仙台市天文台職員
「宇宙を身近に」する仕事
秋本祐希
イラストレーター(higgstan.com)
素粒子物理学の絵を描いてみよう
2022年度
吉岡瑞樹
九州大学科学コミュニケーション推進グループ長/先端素粒子物理研究センター准教授
サイエンスカフェとサイエンスコミュニケーション
高橋将太
高エネルギー加速器研究機構広報室特任専門URA
科学コミュニケーターのおしごと!
安達茜
山形大学STEAM教育推進センター講師
STEAM教育について
田中香津生
加速キッチン合同会社代表/早稲田大学理工学術院准教授
課題の解決とサイエンスコミュニケーション

実践パートの記録

試行錯誤を続けています。

  • 科学イベントの詳細な企画書制作。面談によるフィードバックを経てブラッシュアップし、その一部を制作して相互評価する。(グループワーク)
  • ALPS処理水の海洋放出をテーマとし、コンセンサス会議のようなロールプレイ。専門家による情報のインプットを受けた上で、賛成派・反対派それぞれを地元住民目線・他地域目線に分かれて意見を述べ、合意形成を目指す。(グループワーク)
  • 自身の「推し」エンタメ作品をキーとした関連する科学イベントの企画立案と実践。